会社のオフィスを選定して実際に使ってみましたので,まとめました.
オフィスは必要か
会社を設立するならば,最低限,法人登記のための住所が必要です.自宅を使うなど工夫によって,オフィスが必要ない状況で仕事が可能ならば,住所のみ借りるのが最も安価です.
自宅の住所を登記する場合は,それが契約上可能かを確認します.マンションなど区分所有の場合など,利用規約に「その専有部分を専ら住宅として使用する」と記載されていると登記は困難です.
もしも自宅の住所が登記可能だとしても,自宅を住所にするのは避けたほうがよいです.株式会社の情報はある程度公開されます.本店所在地という項目は公開されるで,gBizINFOなどの法人データサイトで検索するだけで簡単に調べられます.自宅の住所が広く公開されるのは,防犯上避けたほうがよいでしょう.
なお,代表取締役の自宅の住所も登記に含まれますが,ウェブサイトには掲示されないようです*1.とはいえ法務局に請求すれば誰でも観覧できる情報です.住所を非公開にはできないのは嫌ですが,そういう制度なので仕方ないです.
住所のみレンタルするのがバーチャルオフィスです.完全に自宅で仕事ができるならばバーチャルオフィスという選択肢もあります.ただし,会社を運営すると手紙のやり取りが必要になり,これは自宅ではできないです.銀行,年金事務所,税務署との取引は事実上必須なので,最低限,手紙を受け取れるバーチャルオフィスにするべきだと思います.
また,会社を運営するために,法人用の銀行口座を用意しなければなりません.みーは会社設立時にバーチャルオフィスの住所で法人用の銀行口座を作成しました.ゆうちょ銀行と住信SBIネット銀行に申請し,両者ともに受理されました.バーチャルオフィスでは銀行口座が作れないという噂もあります*2が,そんなことはないです.
バーチャルオフィスにコワーキングスペースの利用権がついた商品もあります.コワーキングスペースを実際に使ってみましたが,自分専用のスペースがないのが辛いのと,周囲に騒がしい人がいると集中できないです.不特定多数の人が出入りする空間では個人情報の扱いが難しいですし,感染症対策も困難に感じました.このため,みーはあまり好きになれませんでしたので,専ら自宅で仕事をしました.ただし,自宅で黙々と仕事をしていると,社会とのつながりを感じにくくなります*3.そんな時は,コワーキングスペースに行けば,色々な人が仕事をしている空間に入れるので刺激になります.自宅をベースに,週に1時間ぐらいはコワーキングスペースを利用するのがおすすめです.
住所のみをレンタルするのは安価でよいですが,以下の項目を全て満たさなければなりません.
- 会社に人を招く回数が十分に少ない.
- 商品の在庫管理がない.
- 機密情報を職場で扱わないか,不特性多数の人が出入りする空間で適切に扱える.
上記を実現可能な職種として,インターネットを通じて商品を提供するサービス業(ネットショップ,Webサイトの運営)や,ソフトウェアエンジニア,出張や訪問を主とする講師やコンサルタントぐらいしか思いつきません.これらを満たさない仕事をするには,オフィスを手配しなければなりません.
レンタルオフィス,貸事務所,自社ビル
建物を自分で所有するならば自社物件となりますが,事業規模に合わせて広さを簡単に変更できないのがデメリットだと思います.オフィスを借りるならば,契約を終了すればいつでも引っ越しできるので便利です.
貸事務所の場合は本当に部屋しか貸してくれないので,インターネット回線や電話回線,デスクや椅子の手配,ゴミの管理,火災保険など多くの契約を別途自分で手配しなければいけません.このあたりを一括で用意してくれるレンタルオフィスも存在するので検討するべきです.
オフィスを選ぶための項目はいくつか存在しますが,後から変更ができない項目を優先して候補を絞っていくのが効率的だと思います.
場所と賃料
オフィスの場所は重要です.不特定多数のお客様に来店していただかなければならない業種ならば,追加の費用をかけてでも好立地のオフィスを用意するべきです.そうでなければ,あまり目立たない場所でもよいので,安い賃料のオフィスを選定するのがよいでしょう.賃料は固定費となるため,あまり無理をすると財務的に厳しくなるため注意しなければなりません.
オフィスを借りるときは,場合によっては保証人が複数人必要だったり,保証会社に手数料を払って信用を得なければなりません.特に設立後間もない会社の場合はそもそも契約が難しいという噂も耳にします.費用や信用などの観点から,契約が可能か検討するべきでしょう.
場所と賃料は後から変更することは困難なので,最初に考慮するべき項目だと思います.
換気・空調
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生により,2020年頃から感染症に対する社会の風習が大きく変わったと思います.複数の人が出入りするオフィスで感染症を予防するためには,換気がとても重要です*4.しかし,換気機能は後付できないので*5,オフィスを選定する時に十分に検討しなければなりません.
換気能力を数値化して公開しているサイトがあればよいのですが,みーが調べた限り存在しないです.二酸化炭素含有率が指標となるかもしれませんが,実際にオフィスを見学して測定してみないと分からないので不便ですし,そもそも時間や場所によって大きく変動する数値ですから,オフィス選定の参考にならないです.
建築物環境衛生管理基準が指標になるかもしれません.これは厚生労働省が定めている基準で,特定建築物ならば満たさなければならない空気環境,給水,排水,清掃などの基準です.例えば二酸化炭素の含有率は1000 ppm以下になるよう維持管理することが定められています.つまり特定建築物にあるオフィスであれば,最低限の換気能力が備わっていて維持されていると分かるわけです.特定建築物の一覧は自治体が公開している*6ので,網羅的に検索するのに便利です.
空調の設定温度が調整可能ならば便利そうですが,複数の人が利用するオフィスの場合,誰が温度設定を決めるのかという不毛な争いが発生しやすいです.空調が一括管理されているオフィスならば,なるべく多くの人が満足できる温度に自動的に調整されるので便利だと思います.
耐震性
日常生活では忘れがちですが,阪神淡路大震災や東日本大震災を思い出してください.耐震性は重要です.オフィスに後付できないので,選定する時に十分検討しなければなりません.
耐震性は法律で決められているので検討しやすいです.旧耐震基準を満たすならば震度5強程度の揺れでも建物が倒壊しない耐震性があるとわかりますが,日本は震度6以上の地震が毎年1回程度は発生する*7ので不十分です.新耐震基準ならば,震度6強~7程度の揺れでも倒壊しない耐震性があるので,オフィスで被災しても何とかなる可能性が高くなると思います.
もしも借りたオフィスが被災して使えなくなった場合は,別のオフィスを借りて退去すればよいです.震災による被害について賃借人が修繕費を負担する義務はないはずです*8.免震構造ならばかなり安心に思われますが,オフィスの選択肢がかなり少なくなるので,新耐震基準を満たせば十分だと割り切るのが現実的かもしれません.
建物の耐震性も重要ですが,オフィスの家具が不安定では元も子もないです.背の低い家具を選ぶか,背の高い家具がどうしても必要ならば適切に固定するなど安全対策をあわせて行います.ただし,借りたオフィスの壁に穴を開けるのは契約上好ましくないので,悩ましい問題です.
接地
接地(アース)の端子があるオフィスならば,漏電など一部の電気事故を防ぐことができるので安心です.電波障害の発生を軽減する効果もあるので,液晶ディスプレイなどは接地するべきです*9.しかし,接地端子もオフィスに後付できない設備なので,選定する時に十分検討しなければなりません.
水道
トイレや洗面台,蛇口などの水回りも後付は困難です.清潔な設備があるオフィスが望ましいです.
オフィスの検索
みーは以下の条件で検索しました.
- 自宅から徒歩で通勤できること
- 無理なく払える家賃であること
- 最低2人で使える広さであること
- みーの信用で契約できること (保証人はなるべくお願いしたくない)
- 特定建築物にあること
- 新耐震基準を満たすこと
- 接地端子が備わっていること
- トイレなど水回りが清潔であること
これらを全て満たすオフィスは調べた限り1個しかなかったので,そこに決めました.悩む余地はありませんでした.
これからオフィスを選定する人の参考になれば幸いです.
オフィスの設計
もしもこれからオフィスとして使用する建物を設計するならば,前述した条件をなるべく満たしつつ,ビジネスのニーズに合う土地と建物を用意するべきだと思います.一度設計した建物を後から変更するのはかなり大変なので,最初に明確なビジョンが求められるでしょう.
事務所を借りる経験があれば,自分で設計するときの参考になると思います.何事も勉強だと思って挑戦する心が大切だと思いました.
*1:登記記載の社長の住所、ネットでは非表示に 法務省方針:朝日新聞デジタル
*2:
*3:会社に出勤するのは無駄だと主張するサラリーマンもおられますが,みーは社会とのつながりを感じるという重要な目的があると思います.
*4:感染症予防には換気の他に接触感染対策も重要です.ただし,接触感染対策は手指消毒やマスク,咳エチケットなどオフィスを使用する人の行動が重要なので.オフィス選定に与える影響は少ないと思われます.
*5:窓がないオフィスを借りて,勝手に窓を作ったら間違いなく怒られます.
*6:例えば,大阪市ならばhttps://www.city.osaka.lg.jp/kenko/cmsfiles/contents/0000538/538762/tokuteikentikubutu.pdfに公開されています.
*7:過去の地震情報 震度6弱以上(日付の新しい順) - 日本気象協会 tenki.jp
*8:民法606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。